老朽化全国100万ヵ所超
2025.10.25

建物の土台を支える「擁壁」が崩れるリスクが高まっている。高度経済成長期に多く造られた擁壁が古くなり、9月末には東京都内で戸建て住宅が倒壊する事故が起きた。専門家は全国100万ヵ所以上が老朽化していると指摘。危険な兆候をつかみ、所有者に補修工事を促す取り組みが必要となる。
擁壁は高低差のある宅地や傾斜面で、土留めの壁としてコンクリートやブロックで造られる。地盤を支え土砂が崩れるのを防ぐ役目がある。一般的なコンクリートの擁壁の寿命は30~50年程度とされる。建築物の構造設計に詳しい高橋治・東京理科大教授は高度経済成長期に大都市圏の郊外で造られた擁壁を中心に、全国100万~300万ヵ所が老朽化していると試算する。国は1962年施行の旧宅地造成等規制法で擁壁工事の技術基準などを設けた。81年には震度6強以上の揺れに耐えられる「新耐震基準」を導入。95年の阪神大震災で擁壁の被害が相次ぎ安全基準が厳格になったが、古い擁壁は対策が不十分な恐れがある。2011年の東日本大震災や16年の熊本地震では、石を積み重ねただけのコンクリートで固めていない擁壁や、既存の擁壁に継ぎ足す「増し積み擁壁」が崩れて被害が多発した。局地的豪雨が頻繁に発生するようになり、水圧によって擁壁が崩れやすくなるとの指摘もある。気象庁の観察データによると、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨の頻度は1980年ごろと比べて倍増した。高橋教授は「土砂崩れの危険度を示すハザードマップは更新されるため、建築当初に低リスクとされた場所が今も安全とは限らない」と強調。「屋外の異常は気づきにくいため、住民自身が意識的に確かめる必要がある」と呼びかけている。

