地価バブル超え!85市町村
2023.11.03
地価の回復が地方に広がっている。国土交通省が9月に公表した2023年の基準地価を市区町村別にみると、沖縄県などの85市町村で過去最高だったバブル期の1990年を上回った。新規の工場立地などに加え、子育て環境の整備などで住みやすさを実現した自治体が目立っており、まちづくりの「通信簿」にもなっている。
23年の基準地価は全用途の全国平均が前年比1.0%上昇と2年連続で上がった。投資資金の流入や再開発で三大都市圏が2.7%上がり、地方圏も0.3%上昇した。バブル期の地価上昇が三大都市圏に比べて緩やかだった影響もあり、90年を上回った85市町村は大半が地方圏だった。都道府県別で唯一バブル期を超えた沖縄県は過半の24市町村が上回った。03年に那覇市内でモノレールが開通。訪日客が増えて観光関連産業の投資も拡大する。
バブル期の5倍近くと全国で最も上がった県南部の八重瀬町は06年の町村合併で誕生した。00年代後半に国道が延伸され、那覇市までのアクセスが30分足らずと半減。サトウキビ畑が広がっていた同町屋宜原地区には住宅が増え、人口は約2,000人と7倍になった。国道沿いには大型スーパーや飲食店が建ち並ぶ。不動産鑑定士の仲本徹氏は「那覇市の不動産に手が届かなかった層が流れてきた」と説明する。若い世代が増え、合計特殊出生率も2.15と全国16位の高水準。町は23年中に学童保育施設を2ヵ所増設する。地元住民は「歩道が広く、登下校時の事故の心配もすくない」と話す。
バブル超えの市町村の多くが子育て支援や移住促進、工場誘致などで新たな土地需要を生んでいる。地価がほぼ2倍になった宮城県利府町も運動着の無料支給や、ベビー用品の無料レンタルなどが好評だ。同町には仙台市とつながる駅や高速道路のインターチェンジがある。通勤・通学圏の仙台市内での不動産価格上昇もあり「戸建て住宅を望む子連れ夫婦の転入が目立つ」(地元不動産会社)
インターチェンジ付近には物流施設も増えた。町は土地整備事業を進めてさらなる宅地需要に備える。熊谷大町長は「仙台市と日本三景の松島の中間にあるため通過される町だったが、選ばれる町に変貌した」と胸を張る。
日本一面積が小さい富山県舟橋村も地価が41%上がった。20年時点の人口は3,132人と90年比で2.3倍に増加。「奇跡の村」とも呼ばれるようになった。きっかけは規制が厳しい市街化調整区域の指定が88年に解除されて宅地開発が進んだことだ。以前から子育て支援に熱心だったうえ、隣接する富山市などに比べた割安感もあって、若い家族層が移り住むようになった。舟橋村はさらなる移住促進に向けて19年から村営賃貸住宅を提供しており、将来の定住につなげる。
一方、13年に始まった日銀の金融緩和を柱とした「アベノミクス」のもと、この10年間の全国の地価は平均45%上がり、市町村別でも4分の1の自治体が上昇した。特に中心都市である都道府県庁所在地の上昇率は平均65%に達した。再開発などが相次ぐ大阪や札幌、福岡、名古屋の4市は2倍以上となった。
人口問題などに詳しい東北大学の吉田浩教授は「投資対象となる都市部とは異なり、地方圏の地価はそこに住みたいという人がいなければ上がらない」と強調。「今後も児童環境や教育、空き家対策など総合的な住みやすさが地価に反映される流れが続くだろう」としている。